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高松高等裁判所 昭和35年(ネ)124号 判決 1961年12月22日

控訴人 有限会社 樋口商店

被控訴人 安芸税務署長

訴訟代理人 大坪憲三 外二名

主文

原判決を取消す。

被控訴人が昭和三二年三月三〇日付をもつてなした控訴会社の昭和三〇年九月一日から回三年八月三一日に至る事業年度の法人税基本税額を金二九三、八四〇円とした更正処分のうち、金一〇三、九八〇円を超える部分を取消す。

訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴会社代表者は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、認否は、控訴会社代表者において、本係争事業年度及びそれ以前における控訴会社の売上高、仕入高、期首棚卸高、期末棚卸高は別表記載のとおりであり、その売上差益率はいずれも一八%位である旨主張し、証拠として甲第三号証を提出し、証人長信男、同畠山玉重及び控訴会社代表者樋口勝本人の各尋問を求め、被控訴代理人において、控訴会社の右主張事実中、係争事業年度以外の事業年度につき控訴人が是認した各金額は、控訴会社主張の金額と大体一致することは認めるが右の真実の金額と必ずしも一致していない旨陳述し、甲第三号証の成立を認めると述べた他は、原判決事実指摘と同一であるから、こゝにこれを引用する。

理由

控訴会社の営業種目、控訴会社の昭和三〇年九月一日から同三一年八月三一日までの事業年度分の法人税についてなされた控訴会社の確定申告額、申告日、これに対する被控訴人の更正決定の内容、決定日、これに対する再調査、審査の関係は、当事者間に争いない事実であり、原判決理由第一項記載のとおりであるから、これをこゝに引用する。

本係争事業年度中に控訴会社が使用している店舗が、その所有者である控訴会社代表者樋口勝によつて改築され、その費用に金五〇〇、〇〇〇円を要したことは当事者間に争いない事実である。この改築費五〇〇、〇〇〇円につき、控訴会社は右金員は控訴会社代表者個人が訴外畠山玉重から借受けたものであると主張し、被控訴人は右主張を否認し、これは係争事業年度中における控訴会社の売上金から除外された金品により賄われたものであり、従つて控訴会社主張の売上金額に右金五〇〇、〇〇〇円を加算したものが正当な売上金額であり、控訴会社主張の所得額に右金額を加算した額が正当な所得額であると主張する。

よつて、右の点について案ずるに、成立に争いない乙第四号証の一乃至一〇、証人長信男(原審第一、二回及び当審)、同八木亀次(原審第一、二回)、同畠山玉重(原審及び当審)控訴会社代表者本入(原審及び当審)の各供述を綜合すると、訴外畠山玉重は控訴会社代表者樋口勝の妻の弟にあたるものであり、昭和二八年頃、控訴会社に対し金五〇〇、〇〇〇円を利息、弁済期等については不明確のまゝ、借用証なども作成することなく貸付けていること、右借入金に対しては昭和三二年五月初旬に返済されていること、更に同年五月下旬には控訴会社代表者は、その個人所有の宅地を代金七五五、〇〇〇円で売却し、その代金のうちから金五〇〇、〇〇〇円が同年六月上旬畠山に交付されていること(控訴会社は、これが前記改築費五〇〇、〇〇〇円の弁済であると主張する)を夫々認めることができるのであり、更に前掲各証拠(但し畠山証人の各供述を除く)、控訴会社代表者本人の供述(原審及び当審)により真正に成立したと認めることができる甲第二号証並びに口頭弁論の全趣旨によると、右店舗改築資金の出所、その借入の時期、方法についての控訴会社の主張は、再調査の当時から終始一貫している事実を認めることができる。右の認定のような諸事実に鑑みるときは、右借入金の貸主である畠山の税務職員に対する陳述が、度々変転したこと、又右借入れの事実を証明すべき書面が存在しないというような理由によつては、控訴会社主張の借入れの事実を否定し去ることは困難であり、むしろ、前認定の事実及び前記甲第二号証、畠山証人、控訴会社代表者本人の供述を綜合すると、控訴会社主張のとおりに借入金によつて店舗を改築したと認めるのが相当である。

そうして、右認定を左右するに足る積極的な証拠がないばかりか、かえつて、右金五〇〇、〇〇〇円を売上除外として、これを売上金に加算した場合においては、係争事業年度における控訴会社の売上差益率は二一・五%となることは被控訴人においても認めるところであるが、係争年度以前における控訴会社の各事業年度の右差益率は大体一八%前後となる(係争年度以前の差益率算定の基礎金額が別表記載のとおりであることは当事者間に争いなく、右各金額より右差益率が算出されることは算数上明らかである。もつとも、右金額については、若干の差異があると被控訴人は主張するが、これは差益率算定については影響ないものと認める。)ことが認められ、係争事業年度の差益率は以前の年度に比較して著しく高率となるのであるが、この差益率が高率となつた理由については何らの証明もなく、かえつて、前記控訴会社代表者本人の供述によると、係争事業年度においては前記店舗改築等のために営業成績は不振の傾向にあつたと認められるから、右金五〇〇、〇〇〇円を売上金からの除外と認めることは差益率の点からしても不合理な結果となる。もつとも被控訴人は右認定の本係争事業年度以前の各金額は、控訴会社における真実の売上金額、仕入高額その他の金額と一致しているかどうかは必ずしも明らかでないというが、右各金額は、控訴会社に対する課税において被控訴人が従前是認していたものであることは被控訴人も認めるところであるから、他に別段の証拠のない本件においては、右各金額は一応正当なものと認定すべきである。

又、前記長証人の証言(原審第一回)によると、係争事業年度当時における安芸市及びその周辺における同業者の売上差益率は大体一八%乃至一九%であると認められる点、又、控訴会社が呉服太物以外に洋品雑貨、金物、化粧品、履物等の販売をなしており、後者の模準差益率が前者のそれより高率であるとの点を考慮しても、控訴会社における取扱商品は呉服太物類が全体の七五%位を示していることは証人八木亀次(原審第一回)の供述により認められるから、その他の品物は全体の二五%となるわけであり、呉服太物類の標準差益率を一八・五%(右認定の一八%乃至一九%の平均値)、その他の物について被控訴人主張どおりの差益率の平均値二四・四%(洋品雑貨二二・六%、金物二四%、化粧品二五・四%、履物二五・九%の平均値)として、前認定の取扱商品の割合による綜合した差益率を算出しても、一九%弱となる点からしても、被控訴人主張の二一・五%の売上差益率は高率に過ぎるものといわざるを得ない。このことは、控訴会社主張の係争事業年度における売上高は、前事業年度に比較して約八〇〇、〇〇〇円減少しているが、同じく仕入高においても約一、〇〇〇、〇〇〇円減少している事実(前年度の仕入高が別表記載のとおり一〇、一三九、四〇六円と認むべきことは前記のとおりであり、係争事業年度の仕入高が九、一〇六、八五九円であることは、成立に争いない甲第一号証、当審における証人長信男の証言、控訴会社本人の供述により認められる。)からしても、当然の帰結ということができる。以上要するに、控訴会社が金五〇〇、〇〇〇円の売上除外をなしたとの被控訴人の主張は、合理性を欠くものといわなければならない。

以上説示したとおり、控訴会社の店舗改築費五〇〇、〇〇〇円は控訴会社の売上金から除外したものということはできず、控訴会社の係争事業年度における売上高は控訴会社の主張どおりの額であり、これに金五〇〇、〇〇〇円を加算した額が正当であるとの被控訴人の主張は理由がないものというべきである。

従つて、控訴会社の係争事業年度における所得額は被控訴人が更正決定で認定した金七九七、一〇〇円(当事者間に争いない)から右金五〇〇、〇〇〇円を控除した金二九七、一〇〇円であり、これに対する法人税基本税領金一〇三、九八〇円が正当な税額というべきである。

よつて、被控訴人のなした本件更正処分中右金額を超える部身は違法なもので取消すべきであり、控訴会社の本訴請求は全部理由があるものというべきであるから、控訴会社の請求を棄却した原判決を取消し、控訴会社の請求を認容し、訴訟費用の負担につしき民事訴訟法第八九条第九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺進 水上東作 石井玄)

別表<省略>

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